Concepts de base
ヒルベルト空間の圏の代数的な側面を抽象化したR*-圏は、加法性や準アーベル性など、アーベル圏と類似した特徴を持つ。
本稿では、実数、極限、ノルム、連続性、確率などの解析的または位相的な概念を用いずに、ヒルベルト空間の圏の特性を捉えることを目的とする。そのために、ヒルベルト空間の理論の「代数的」側面を抽象化した概念であるR*-圏を導入する。R*-圏は、有限双積の直交化や、Sz.-Nagyのユニタリー伸張定理の変形をサポートする等、ヒルベルト空間の圏と類似した特徴を持つ。
R*-圏の定義と特徴
R*-圏は、以下の公理を満たす*-圏として定義される。
ゼロ対象が存在する。
すべての対象のペアに対して、直交等長双積が存在する。
すべての射に対して、等長核が存在する。
すべての対角射 Δ: X → X ⊕ X は正規モノ射である。
R*-圏は加法性を持ち、正規モノ射のプッシュアウトは正規モノ射であるという性質を持つ。このことから、R*-圏は準アーベル圏であり、ホモロジー代数の図式補題など、多くの有用な性質を持つことが示される。
R*-圏の例
R*-圏の例としては、実数、複素数、四元数のヒルベルト空間の圏、半順序可除環上の有限次元内積加群の圏、W * -代数上の自己双対ヒルベルト加群の圏などが挙げられる。
R*-圏における直交性とグラム・シュミットの直交化法
R*-圏では、直交補空間、直交双積、グラム・シュミットの直交化法など、ヒルベルト空間の理論で重要な概念が自然に拡張される。特に、グラム・シュミットの直交化法を用いることで、R*-圏における任意の有限双積を直交双積に変換することができる。
R*-圏における正値性、可逆性、縮小射
R*-圏では、エルミート射の標準的な半順序を用いて、正値性、可逆性、縮小射などの概念を定義することができる。特に、縮小射に対しては、Sz.-Nagyのユニタリー伸張定理のR*-圏版が成り立つ。
R*-圏の更なる展開:M*-圏
R*-圏のうち、等長射の圏が有向余極限を持つものをM*-圏と呼ぶ。M*-圏は、W * -代数上のヒルベルト加群の圏などを含み、R*-圏の理論をさらに発展させたものとして、今後の研究が期待される。